ちょっとした気づきで…
みなさんは、「手すり」という言葉を聞いて、どのようなイメージを持たれますか?
最近では、廊下や階段、トイレや浴室など手すりが付いている家も少なくないでしょう。
手すりという言葉は、手を摺(す)らせて使うから手摺り(てすり)と呼ばれるようになりました。他にも語源として「まっすぐな棒」「導く」という意味があるようです。
今回は、そんな手すりにまつわるエピソードをご紹介します。
この写真は、田舎では時々見かける玄関まで続くアプローチ階段がある家です。
この家で暮らすAさん夫妻は、30年間毎日のようにこの階段を昇り降りしてきました。そんなAさん夫妻ですが、ご主人は85歳、奥さまも78歳とお世辞にも若いとは言えない年齢になってきました。ご主人は身体の動きも少しずつ衰え、様々なところで不自由さを感じながら、それでもなんとか奥さまの介護のもと日々の生活を送っていました。
少し前までひとりで昇り降りしていたこの階段も、今では不安に思いながらふたり手を取りあって外出されていました。
3月のある日のこと、奥さまから「外の階段に手すりを付けたいんよ」と、ご相談がありました。話しを聞けば、気候も穏やかになってきたこともあり、ご主人を外に連れ出してあげたいとのことでした。
さっそく、介護保険制度を利用して手すりを取り付ける段取りを進めていきました。
そして取り付け工事当日、作業をする私に「主人には元気でいてもらわんと困るけえ、手すりなんかに頼ったらいけんと思っとった」と、奥さまが話しかけてきました。しかし工事完了後、奥さまの口からポツリ「もっと早く手すりを付けてあげればよかった」という言葉が。続けて、「こうやって手すりを付ければ、主人だけでなく私も楽になるわ」と話されていました。実は、奥さまも膝や腰に痛みをかかえていたため、通院や買い物のためご主人を家から連れ出すのに限界を感じていたのかもしれません。たかが手すり1本かもしれませんが、ご主人にとっても奥さまにとっても"支え"となる1本になったのではないでしょうか。
住み慣れた家や土地で、できるだけ長く暮らしたいという思いは誰しもが抱くはずです。そこに住む人の家族構成や年齢の変化に応じて、住宅環境も少しずつ見直していくだけで、同じ家で20年30年と暮らしていくことができます。
今住んでる家も、誰かが不自由な思いをしているかもしれません。
家族みんなが明るく暮らしていくために、それぞれの目線に合わせて自宅を見てみるのもいいものですよ。